琉歌」カテゴリーアーカイブ

名護親方の琉歌いろは歌

現代仮名遣いで易しく読める
名護なぐ親方朗ーかたていじゅんそくの琉球いろは歌

平成23年5月19日
國吉 眞正

はじめに

沖縄口うちなーぐちの勉強会の席で、名護なぐ親方朗ーかたていじゅんそくの「琉球いろは歌」のことが話題になったのをきっかけで、文献を調べてみました。
まず表記については、県外の方や沖縄の次世代の若い人たちには、読みにくい点が挙げられます。そして沖縄口うちなーぐち独特の音についての表記は、不適切であることが分かりました。
不適切な表記で次世代の子どもたちに継承されると、沖縄口うちなーぐちは乱れて行きます。
このようなことから「琉球いろは歌」を適切な表記で書き換えて整理しました。勉強会等で参考にしていただければありがたいです。
およそ300年も前に、名護なぐ親方朗ーかたていじゅんそくが留学先である中国からりくえんと言う書を刊行して持ち帰り、庶民教育のために、「琉球いろは歌」を作って道徳教育を行っております。
また、りくえんは島津藩経由で徳川将軍(八代吉宗)へ献上されて、その後全国の寺子屋で日本の道徳教育の教科書にもなったのです。

平成23年5月18日
國吉 眞正


さんにん(月桃)

凡例
・沖縄語独特の音を表記するため、沖縄文字を使って表記してあります。沖縄文字は、沖縄語独特の音の一音を一字で表すのが特徴ですが、「沖縄文字等対比例一覧」を沖縄文字一覧のページに示しました。
「音」の欄の中で「?」で示しているのは、声門を閉じておいて、急に開いて発声することを意味します。つまり破裂音です。また、「’」は破裂音のないこと、すなわち不破裂音を示します。
この一覧に於いて、沖縄文字の読み方をカタカナで、「彩」を「クヮ」のように示していますが、発声する時、「彩」は、一音で「kwa」(くゎ)と発声します。二音「kuwa」(くわ)ではありません。「彩っちーさびら」のことを「くわっちーさびら」という人がいますが、間違いです。
朗ーかたていじゅんそくの「琉球いろは歌」は、琉歌でまとめられています。文語になっていますので、口語体の沖縄文字にさらに文語体の四文字を追加して表記してあります。

文献によっては、間違いもありますので、直して表記しました。

・漢字の使用について。
基本的に沖縄語の語句の読みの音と漢字の読みの音が似ていて、しかもその漢字の持つ意味が、沖縄語の語句の意味と一致しているものを使っております。

本文の「な」のところで、「うんたさ」と当て字を使っていますが、仮名に置き換えました。「うんたさん」という語句は、「愛される。慕われる。敬愛される。」という意味です。音が似ているだけで漢字を使うと、誤解を与えます。

・「上」という漢字の振り仮名については、琉歌の8音にそろえるため、1音の「晴」と2音の「晴ー」を付与しているところがあります。例えば「い」のところでは、「晴ー」となって、「よ」のところでは、「晴」と付与しました。

参考
朗ーかたていじゅんそく
1663年 那覇の久米村で生まれる。
1683年 通事となる。留学生として、第一回目の中国訪問。
1687年 中国から帰国。講解師匠(国が認める先生)となる。1689年 通事として第二回目の中国訪問。琉球館に三年留まる。
1691年 帰国。
1696年 進行北京大通事となる。第三回目の中国訪問。
1706年 進行正議太夫となる。第四回目の中国訪問。
1708年 「りくえん」を中国で製版・印刷し持ち帰る。
1714年 江戸慶賀使として、与那城王子、金武王子に随行し、
江戸に赴く途中、島津吉貴公に朝見し、「りくえん」を
献上。江戸に上り、新井白石や荻生徂徠らと会見。
1718年 琉球最初の学校「明倫堂」を久米村に創設。
1719年 程順則、三司官座敷に列せられる。
島津吉貴公、「りくえん」を徳川吉宗に献上。
将軍の命により、荻生徂徠、室鳩巣らによって和訓され、寺子屋に於いて日本の道徳教育の教科書となった。
1720年 第五回目の中国訪問。
1728年 じりすー婢ーとなり、以後は朗ーかたと呼ばれる
ようになる。
1734年 逝去。

・「六諭衍義」 ①父母に孝行しなさい②目上の人を尊敬しなさい ③村里にうちとけなさい④子孫を教え導きなさい ⑤各々の生業に甘んじなさい⑥悪いことをするな

「い」

ちんゆしぐ婢や 晴ーたから
みみき廒 ちむみり

人から受ける忠言や教訓は、わが身にとって宝である。だから、耳をよく開いて忘れないように、しっかりと心に留めておきなさい。

「ろ」

かじさだみ廒嬨 ふにはしらしゅる
すんはじらすな ちむ手綱たんな

櫓や舵の方向を定めて船を走らせるように、人がこの世を渡るにも、心の手綱をしっかり握って、向かう所をあやまらぬように注意することが大切である。

「は」

はじうみみり あさむぬぐ婢
ちむ歹さみゆる かなみ

人間として恥ずべきことをよくわきまえて、あらゆる機会に自己修養をすることが、最も肝要だと思いなさい。

「に」

にくさある懲婢ん にくさ嬨ん流るな
ちむちなしや 懲るきり

憎い人であっても憎むな、心は広く持ちなさい。

「ほ」

ふたるかじに しみなら廒でん流
だんさんむぬ嬨 沙汰さたぬく

蛍火の下に学問して油断しない人が、名声を残す。

ここまでの沖縄文字(読み方=すべて一音で読む)
婢=トゥ、晴=ウィ、廒=ティ、嬨=ドゥ、歹=ヲゥ、流=スィ、懲=フィ。

「へ」

から嬨なら廒 すぐりゆん流ゆる
うゆばらん婢廒 あんするな

下手だからこそ稽古して上手になるのです。とても及ばないと思って思い惑うな。

「と」

婢し廒廒やい いたじらるな
ちゅく婢嬨んすりば たみゆる

年寄りだからと言って、むなしくのんのんと過ごしてはいけない。何か一事でもすれば、為になるのではないか。

「ち」

知能才ちぬざある懲婢や なかふん
あさち婢み婢廒 沙汰さたぬく

知能や才気に勝れた人は、世の中の模範である。朝夕何時も努力して沙汰を残すようにしなさい。

「り」

くんいちわいや 芥子ちしはなぐくる
かじかな廒ん 廒るしじさ

口先でうまく言いつくろって、嘘をつくことは芥子の花のようなものだ。風は吹かなくても激しく散っていくものだ。

「ぬ」

くりさ婢廒 だん嬨ん流るな
あまはたらちぬ あだにゆみ

どうしてこんなに苦しいのだろうかと思って油断してはいけない。一生懸命働いて骨折り損になることはない。

「る」

るりぬたま廒 ちむちなしや
きじちかん朗だぬ たからさらみ

るりの玉だと思って心の持ち方を考えなさい。るりの玉は傷がつかぬうちが宝だから。

「を」

歹婢くまり廒ん 歹んなまり廒ん
だんさんむぬ嬨 ちゅる

男に生まれようとも女に生まれようとも油断しないで、一生懸命働く者こそが、自分の身をもつことができるのだ。

「わ」

我身わみきじあらば 我身わみきじなおし
懲婢きじし廒 いちさみ

自分に欠点があるなら、自分の欠点を直しなさい。他人の欠点を悪く言っても為にはならない。

「か」

かくかくさりみ 懲婢あやまちぬ
いすあらたみ廒 ちむみが

人の過ちは隠そうとしても隠せるものではない。急ぎ改めて己の心を磨きなさい。

「よ」

余所ゆすきじん 余所ゆすきじ
我身わみしや さだぐりしゃ

他人の欠点も他人のみの欠点と思うな。自分の善し悪しだって、はっきりと決めることは、たやすいことではない。

「た」

たるち婢みりば 婢し廒ぬらく
すん寄言ゆしぐ婢や たみゆる

誰でもやるべき事を一生懸命やれば、年取ってから楽になります。中でも子孫の教育は、とりわけ大切で為になる。

「れ」

りーわしりりば やみみち
我胴わ嬨すくなゆる あゆぐりしゃ

礼儀を忘れると、闇の夜の小道と同じで、わが身を損ね、歩きにくいものである。

「そ」

すしらわんかむな ふみらわんかむ
ちむうみみり あささん

人に誹られようと誉められようと気にしないで、朝に夕に自分の心を磨きなさい。

「つ」

ちにうみみり 懲婢ならわしや
わらびしぬちむ嬨 ふくさらみ

常に心しなさい。人格の形成というものを。これは幼児期の心作りが基礎となっているのです。

「ね」

にたはらちや 怪我きがむ婢でむぬ
義理じりうみみ廒 ちむみり

妬んだり腹を立てたりすることは、怪我のもとであるという道理をよくわきまえて、そうならないように自分の心を引きしめなさい。

「な」

なまわらびや廒ん しらかみ婢廒んな」
望ぶさうんたさや ちむ嬨やゆる

若者だろうと年寄りだろうと、人々に重んぜられたり尊ばれたりするのは、その人の心がけ次第である。

「ら」

らくすだつしや くりさするむ婢
むぬうみみ廒 うちわた

楽に育つのは苦労する基、その事をよく考えて世間を渡りなさい。

「む」

んににあるかがみ あさうみみり
ちりちむ廒からや みがぐりしゃ

胸にある鏡を何時も磨きなさい。塵が積もってからでは、磨きにくいものである。

「う」

し廙しまりみ たまいぬち
わかたるがき廒 粗相すそちゅな

惜しんでも惜しまれないたった一つしかない命だから、若さを頼みにして粗末にしてはいけない。

「ゐ」

杖ぬはる廒ん 懲婢はなちゅみ
婢しちゅる だん流るな

同じ春になったとて人に花が咲くだろうか。年を取るばかりであるから、油断してはいけない。

「の」

ぬあるむぬぬ ちむらぬむぬ
はならん かりぐくる

芸能に勝れていても、仁徳の不足している者は、心が枯れているので、花を咲かせることはできない。

「お」

う嬨さはしちゃさや まり漢ちでむぬ
だんゆいふかに 婢がさみ

賢愚は生まれつきだから、油断すること以外は、その人に罪はない。

「く」

くむかじたゆ廒 廒んちゅい
懲婢ちむしち嬨 うちわた

雲は風を頼りとして、天の果てまで行くが、人は何物に頼るよりも、まず心を頼りとして浮世を渡るべきである。

「や」

やしゃるむぬ廒 懲婢あざむくな
明日あちゃ晴ーん さだぐりしゃ

貧乏人だと思っても人をあざけってはいけない。明日はわが身かも知れない。

「ま」

まさるちゃさ婢廒 懲婢すしゆい
懲婢う婢たる ちむみり

人に勝りたいと思って他人の欠点を見つけて悪口を言ったりしてはいけない。人をそしるよりは劣っている自分を責めなさい。

「け」

怪我きがみなむ婢や さきいるぐぬ
あさうみみり 按司あじ下司げし

酒と色好みは、人生における失敗のもとであるから、上の者も下の者も、そのことをよく心にとめておきなさい。

「ふ」

ふ婢きかみ廒流ん ちむさば
まく婢ゆいふかに かみさみ

仏や神と言っても心の中で決めることで、誠以外に神はない。

「こ」

がに廒ん なんじゃ廒ん
ちむちなし嬨 かざいさらみ

黄金のかんざしをさしていても、銀のかんざしをさしていても、それがその人の飾りとはならない。心の持ち方こそ本当の飾りである。

「え」

得手杖廒むぬ廒 まん嬨ん流るな
懲婢ぬあざわれや 嬨くゆる

得意のものと思って自慢などするな。人から嘲笑されて身の毒になるばかりだ。

「て」

しみすぐり廒ん 知能才ちぬざすぐり廒ん
ちむちむさらみ 世界しけなれ

学問に勝れていても、知恵や才能が勝っていても、心が肝賢です。これが世の中のならわしなのです。

「あ」

あしたわむりぬ ちむ廙からや
ちんゆしぐ婢ん いちさみ

遊びごとに夢中になりふざけて、面白おかしく暮らすような習慣が身についてしまった人には、意見や教訓になることを言ったところで、何の益にもならない。

「さ」

さかう婢るいや なちふゆぐくる
けーげーし ぬがぐりしゃ

栄枯盛衰は、年毎に夏と冬がめぐりめぐってくるように、その繰り返しから、逃れることはできない。

「き」

ちむ 粗相すそにしちからや
しみ学問がくむぬん あだゆる

心を引き締める縄を粗末にしていたのでは、手墨学問を修めようとも仇になるばかりである。

「ゆ」

欲悪ゆくあくく婢や ちりふ嬨ちゅな
ちりむ廒からや やまゆる

物を欲しがる醜い心は、塵ほども持つな。塵が積もってからは山となる。

「め」

みじらさるむぬ婢 ちむじゃく流るな
じゃく人間にんじんぬ 怪我きがむ婢

珍しい物だからと言って良心に逆らうような事をするな。良心をとがめるような事をすると、あやまちのもとになるから。

「み」

りや うびらじにむん
粗相すそ懲婢ぬ すばるな

見たり聞いたりしていると、知らないうちに染まっていくものである。だから物事をおろそかに扱うような人の側にはいない方がよい。

「し」

すん寄言ゆしぐ婢や だん嬨ん流るな
いぬちちながする い婢

子孫の教育は、油断してはならない。家系をつないでいく大事な仕事だから。

「ゑ」

杖ー字書じかちや 筆先ふ廙さちかざ
ちむだま あさみが

絵や字の上手というものは、筆先の飾りである。人の飾りは心であるから、朝夕磨きなさい。

「ひ」

懲婢物事むぬぐ婢に まさい婢
まんするむぬや 馬鹿ばかゆる

人間が自分の方が物事に勝れていると思って自慢する者は、愚か者になるだけである。

「も」

無理むり銭金じんかにや あだちゅる
義理じりうみみ廒 無理むりにするな

何事でも無理という限界を超えた場合、その結果はよいことはない。心のともなわない金銭の取り扱い方は、仇になっていくという事をよくわきまえて無理をしてはならない。

「せ」

きんなみに わたふに
ちむかじでむぬ 粗相すそちゅな

世間という広い荒波を渡るという事は、並大抵のことではない。それには心が舵だから粗末にしてはいけない。

「す」

すぐすぐりや ちむから嬨やゆる
にんむぬに 下手懲たさみ

物事の上手下手は、その人の心がけ次第である。念を入れる者に下手はいない。

参考文献

・沖縄の黄金言 山城菊江解説、豊平峰雲書、沖縄総合図書
・名護親方・程順則の「琉球いろは歌」 安田和男著
・残しておきたい昔言葉 沖縄の名言 伊良波長傑解説、外間峻岩書、郷土出版
・船津好明著 論文「沖縄語の普及と表記の方法に関する研究」2007年10月
・船津好明著 論文「沖縄語教育研究」2010年6月
・沖縄語辞典「国立国語研究所」
・広辞苑「岩波書店」
・新公用文用字用語例集「内閣総理大臣官房総務課監修」


富盛石彫り大獅子(沖縄県指定有形民俗文化財)1689年建立
八重瀬町富盛